思想

二十一世紀の新たな伝統――Frithjof Schuon"The Transcendent Unity of Religions"

イスラームに心が傾きはじめたことがきっかけで、この比較宗教学者フリッチョフ・シュオンの初期代表作にも手を伸ばした。完読していないので評価はつけない。 簡単に言えば、どの宗教も顕教的(エキゾテリックな)側面と密教的(エソテリックな)側面があり…

非論理極まりない論理本――北岡俊明『「論理的に話す力」が身につく本』★

アマゾンレビューから。 この本では「論理的に話す力」は身につかない, 2008/9/3 By kanedaitsuki - レビューをすべて見る 「論理的に話すための実践的な「方法論」について述べた」(p.3)とあるが、読み進めてみると、著者自身の論理的とは言いがたい記述…

言挙げせぬもほどほどに――小野田博一『13歳からの論理ノート』★★★★

国際通信チェス連盟インターナショナル・マスターでもある小野田博一は、論理力を鍛える数々の本も出版している。この本もそういう中の一冊なので、他の本を既にお持ちの方は、あえて購入する必要はない。しかし、タイトルが示唆するごとく、中学生あたりが…

哲学の東北――加藤尚武編『哲学の歴史 7 18-19世紀』★★★

中央公論新社の哲学新シリーズ。「歴史」と銘打ってはいるが通史ではなく、重要人物や学派などの論考をまとめたもの。 若い頃はこの手のシリーズが出たら四の五の言わず、全部買っていた。今のところはドイツ観念論本のこれと、中世哲学の3巻のみ購入読了済…

ハートで感じる論理学――野矢茂樹『入門!論理学』★★★★★

快著である。記号を最低限しか使用しておらず、語り口も堅苦しくなく、ユーモアたっぷりである。 論理学と自然言語とのギャップを埋めようという著者の試みは成功しているのではないだろうか。標準論理と非標準論理を「神の立場」と「人の立場」という風にあ…

チェスタートン『正統』より

おそらく既にどこかで言及されていると思うが引いてみる。 想像力から狂気は生まれない。狂気が生まれるのは間違いなく理性からである。詩人は狂わない。チェスプレイヤーは狂う。数学者は狂う。銀行員も狂う。創造的な芸術家はほとんど狂わない。あとで見る…

永遠平和は可能か――太田光・中沢新一『憲法九条を世界遺産に』★★★★

この世界において、次第次第に、効果のある非暴力をもって暴力にかえて行くように努力すること。 シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』 私は今でも、もし必要ならば戦争は可であるという考えである。しかし、最近になって、ますます「永遠平和は可能か」という…

脱保守派宣言

私も宣言しておくか(笑 明らかにここ最近つづけているカトリックの伝統原理主義への批判が私のポリティカルなスタンスにも影響しているのは事実ではあるが、数年前から、いわゆる保守言論に対して違和感を持ってはいた。 ついこの間読んだが、おそらく朝日…

憲法9条を世界遺産に

爆笑問題太田の例の番組、議論のレベルが低すぎて見ていないのだが、昨日はたまたま。 太田自身の言うことを聞くかぎり、「念仏平和主義」を出ていない。太田によれば、憲法9条を維持しその精神を世界に広めて平和を実現する、というのは(よく批判されるよ…

タイムリーな小品――小林よしのり『いわゆるA級戦犯』★★

東京裁判が事後法による一方的なものであること、「A級」が罪の重さに関係しないこと、など基本的な事項を抑えつつ、東條や重光などの個人をピックアップして事績を詳述した小著。残念ながらそれほど目新しいことが書かれているわけではない。また、全体に『…

ヴェイユの言葉

在ったことをなかったことにするのは、神にもできない。創造が放棄であることを示す、これにまさる証左があろうか。 神にとって時間にまさる放棄があろうか。 (・・・) いまこの瞬間も、神は創造の意志によってわたしを存在のなかに維持しつづける。わたし…

自由という概念

読売新聞書評に載っていて気になった一冊が半澤孝麿『ヨーロッパ思想史のなかの自由』。 amazonでの解説を引く。 人間は、他者の強制によらず、自己の自由な選択により行為する。この自由意志論はアリストテレスに現われ、中世アウグスティヌスとトマスにお…

観念に萌える奴ら

稲葉振一郎さんが紹介していた文章にやや受け。 http://d.hatena.ne.jp/shinichiroinaba/20051218 「古賀徹 哲学 「単に生きるのではなくよく生きる」この命題を巡って二つの見方が対立している。一つがギリシャ哲学の大家、岩田靖夫の『よく生きる』(ちく…

終わりについて

私とはおそらく思想的政治的立場が大きく異なると思われる「戒棋夷説」のmaroさんであるが、その文章に感銘を受けることは多い。 「戒棋夷説」11月27分記事より引く。 http://www.orcaland.gr.jp/~maro/diary/diary.html たとえばコンピュータと人間の比較に…

「現御神」とはザインとしての天皇とゾルレンとしての天皇のアウフヘーベンである

実は里見『天皇とは何か』には「女性天皇」を容認する文章がある。 皇位の内容は道である。公的存在たる天皇もまた道である。このご自覚の堅持こそ歴代として皇位を承けたまう御方の天職でなければならぬ。 今日の皇室のご実情から考えると、皇位継承は将来…

太宰治は戦後「リベラリストはいまこそ天皇陛下万歳を叫ぶべきだ」と言った

皇位継承問題について「玄倉川の岸辺」というブログに書かれていることに非常に共鳴した。ぜひ紹介しておきたい。 http://blog.goo.ne.jp/kurokuragawa/c/4e39a21ecbbe1dd0a0b3f385aa8344f1 私は世間では少数派の男系維持論者である。 神話と伝説によれば2…

天皇の神聖不可侵

宿題のひとつだった天皇の「神聖不可侵」について、里見の見解を紹介していこう。 天皇は神聖不可侵であるか、ないか、というのは、憲法上の問題であって、神学上の問題や単なるイデオロギーの問題ではない。だから、神聖不可侵を解釈するのに、神様問題など…

臣金田一輝つつしんで

「礼儀知らず」と二度と呼ばれないように、今後当ブログにおいては、吉祥寺杉本さんのことを、 吉祥寺宮杉本殿下(きっしょうじのみやすぎもとでんか) とお呼びすることにする。本来は名の方に殿下をつけるべきなのでしょうが、そうすると同定しにくくなる…

吉祥寺杉本氏に応ず

吉祥寺杉本さんは、私の文章及びトラバによほど頭にきたらしく、あんとに庵さんのところのコメント欄で(なんで?(笑)私を以下のようにののしっておられる。 http://d.hatena.ne.jp/antonian/comment?date=20051115#c さて、わびさびの金田が私にトラック…

皇男子孫への皇位継承は事実上の憲法(慣習法)である

さて、「国家の立法論にそのまま持ち込むことがまともな頭ではないと言ったのですが」と言うので、件の文章を目を皿のようにして読みましたが、おそらく該当すると思われるのはわずかに以下のところ。 http://blog.livedoor.jp/mediaterrace/archives/502237…

皇紀2665年の天皇論

閲覧したところ「吉祥寺の森から」において、女性・女系天皇問題について論及していた。 http://app.blog.livedoor.jp/mediaterrace/tb.cgi/50223741 さて、女性天皇はこれまでにも推古天皇や斉明天皇など8人が存在した。だが、女系天皇、つまり、女性の天…

「皇紀2665年」論

吉祥寺さんは、皇紀2665年を使う人間が正確に2665年前を紀元と考えていると決めつけ、「まともに考える頭を持ってい」ないのだと蔑視しておられる。 http://blog.livedoor.jp/mediaterrace/archives/50223741.html ところで、西暦とは言うまでもなくキリスト…

天皇本を読む

里見岸雄本さぼって、中川八洋『皇統断絶』大原康男『天皇―その論の変遷と皇室制度』をたてつづけに読む。中川は絶対原則のひとつとして皇族の養子の禁止を挙げていて、養子採用の浅はかさを痛感した。私も養子論については取り下げたい。中川の主張(皇位の…

天皇と政治

ほとんど直観なのだが、天皇に「統治権の総覧者」としての地位を戻すことこそが、天皇制と日本型民主主義を安泰ならしめるベストな方法ではないのかと思うようになってきた。三島は菊と刀との結びつき、すなわち天皇と軍隊との紐帯を復元すべきとしたが、そ…

国体に対する疑惑

『萬世一系の天皇』を休んで里見岸雄『国体に対する疑惑』を読みふける。すでに述べたように里見は、やたらに神秘化したような国体論(天皇論)を批判して、諄々と理性的なアポロジーを展開している。しかし、読んでいて違和感を覚えるところもある。私は渡…

天皇論

『萬世一系の天皇』ちびちびと読む。里見は左の軽薄な天皇論を否定する一方、昭和前期に威勢をふるった、天皇を神格化するような右の天皇論をも批判している。理性によって受け入れがたい天皇論は、かえって皇室の存在に疑義を生ぜしめ、その存続の危機をま…

萬世一系の天皇

注文していた里見岸雄『萬世一系の天皇』が届いた。おそらく名前を知っている方は少ないだろうが(私も最近まで知らなかった)、その筋では超有名な天皇論者のひとりだ。 検索してみると、一水会顧問・鈴木邦男が触れていた。 http://www.geocities.co.jp/He…

天皇と私

コメント欄でも書いたが、一時期私は反天皇ナショナリストであった。というのもファシズム信奉者だったからだ(笑 私はファシズムにとってもっとも邪魔なのは天皇の存在だと思っていたわけである。独裁者は政治権力を集中するのみならず、国民に対する精神的…

兵頭二十八『軍学考』★★★

他の著作のようにテーマを狭く限定して論じるでなく、あれこれと話題がとび、書き下ろしながらどちらかというとアンソロジーに近い。いつもの通り、「常識」に反する兵頭流正論が語られているが、卓見とは思えても、あまりに専門的すぎてその是非がよくわか…

渡辺京二『北一輝』★★★★

伝記と思想がバランスよく記述されている。その生涯の短さと著述の少なさ(特に私的事実について北はほとんど書き残していない)から、この程度の分量でも適当なのだろう。先行研究者、たとえば松本清張や松本健一への批判はなかなか辛辣で、特に後者の文学…