二十一世紀の新たな伝統――Frithjof Schuon"The Transcendent Unity of Religions"

kanedaitsuki2009-05-03

 イスラームに心が傾きはじめたことがきっかけで、この比較宗教学者フリッチョフ・シュオンの初期代表作にも手を伸ばした。完読していないので評価はつけない。
 簡単に言えば、どの宗教も顕教的(エキゾテリックな)側面と密教的(エソテリックな)側面があり、前者において違いがあれど、後者においては一致している、全ての宗教は共通の聖なる源泉を持つ、という考え方が提示されている。こう要約すると、よくある話ではないかという気もするし、だいいち私はこの類の思想が嫌いだった。しかし、シュオンの著作は驚異的な博識と高邁な精神性を併せ持ち、そうした心理的障壁を破壊するに足る。
 単純な二分法に陥っていないところもいい。それは'Concerning Forms in Art'の章によく現れている。宗教建築や宗教絵画は、感覚を超えたものを、それとは真逆にある感覚的なものを通して示す装置である。いわば、信仰の受肉である。それゆえ、宗教の外面はその内面と密接不可分な関係にあり、エキゾテリックな側面は決して無視されてよいわけではない。書名が単なる「諸宗教の一致」ではなく、「諸宗教の超越的一致」であるのもそのためだ。
 ところで最近そもそも「宗教とは何か?」という問いに対する簡明な答えは結局の所こうではないかと思うようになった。すなわち「エゴとの闘いの場」。なぜ信者には厳しい規律が必要なのか。なぜ絶対者への完全な服従が救いの道なのか。勘違いしてはならないが、エゴの滅却が最終目的ではない。最終目標は真理との一致だ。「エゴとの闘い」が必要なのは、真理との一致に対する最大の障害がエゴだからである。ここに、規律や服従が絶対的自由であるという逆説の本義がある。


Transcendent Unity of Religions (Quest Book)