ミステリ

余談――加藤元浩『Q.E.D.-証明終了-ザ・トリック・ファイル』★★

こういうファンブックは基本買わないのだが、『Q.E.D.』は例外の一つ。 作者による自作解説が集録されており、『レッド・ファイル』については以下の通り。 金融工学で株価暴落は防げません! 世界的に株価が大暴落したとき、ラジオでコメンテーターが言って…

ベテランの風格が出てきた――加藤元浩『Q.E.D.』32巻★★★

NHKで実写ドラマ化もされている理系ミステリ漫画。「マジック&マジック」「レッド・ファイル」二編収録。 「マジック&マジック」はシリーズものならではの味なストーリーで佳作。ちと驚いたのは「レッド・ファイル」で、ずばり金融工学をモチーフにして…

「Q.E.D. 証明終了」

NHK総合午後8:00〜8:45。 水原可奈(高橋愛)、水原警部(石黒賢)がミスキャスト過ぎ。演出も演技もひどい。なんか、予算が少ない中やりくりしたんだろうなあ。これなら『パズル』の方がなんぼかましだった。『ガリレオ』とは比べるべくもなし。

時代ものラノベ?――エリス ピーターズ『聖女の遺骨求む ―修道士カドフェルシリーズ(1)』★★★

中世イギリスの修道士を主人公とした時代ミステリ。それぞれのキャラも立っているし、オチのつけ方もうまく設定を活かしている。宗教者がかかわっているが、勧善懲悪でなく、変な説教くささのないのも美徳。ただ、ディープな哲学的問題が取り上げられるわけ…

森博嗣お前もか――森博嗣『τになるまで待って 』★★

Gシリーズ3作目。外部と断絶した館もの。こういうベタなシチュエーション、以前にもあったかも知れないが、忘れた。 シリーズをまたがって暗示される闇の巨大組織の存在があって、ストーリー中の謎のすべてが解決するわけではないのは森作品の常道ではある…

正統と異端の間で――麻耶雄嵩『螢』★★★

麻耶雄嵩は奇怪なロジックで構築された作品群によって、ミステリ界に衝撃を与え続けた作家である。私も『夏と冬の奏鳴曲』にしびれた一人だ。しかし、そのあまりの奇抜さに、賛否両論あるのも事実である。 この作品はそれでいくと一見しごくまとも。かつて蛍…

『キミ犯人じゃないよね?』(テレビ朝日系)

『富豪刑事』や『ケータイ刑事』のようなミスコメ(ミステリ&コメディ)。前期のNHK朝の連ドラ『ちりとてちん』で女落語家を好演した貫地谷しほりが記憶力だけ優れた推理作家の卵役で、要潤扮するおぼっちゃん刑事とコンビで事件を解決するというバディ…

次回作に期待――浦賀和宏『堕ちた天使と金色の悪魔』☆

八木松浦シリーズ第七作。コンスタントにシーズンごとに上梓していたが、今作は前作から半年以上たっている。さぞや執筆に手間取ったのだろうと思いきや。 松浦視点で描かれた前作『世界でいちばん醜い子供』とシンクロする形で、同時期を八木視点で補完した…

刑事がタンクでやってくる――R.D.Wingfield "Winter Frost"★★★★

フロスト警部シリーズ第五弾。 売春婦連続殺人に幼児誘拐。英国には変態が犇いている。 フロストの傍若無人ぶりは今回も健在。やりたい放題の出鱈目捜査や取り調べを繰り返し、あげくの果ては大失態を演ずることになる。しかし、それに輪をかけてひどいのが…

モラルなきプロフェッショナル――R.D.Wingfield "Hard Frost"★★★★

フロスト警部シリーズ第四弾。邦訳は三冊目までしか出ていないようだ。 上司の上物の煙草をくすねようと、オフ中署に立ち寄ったフロストが、やむをえぬ成り行きで仕事をさせられてしまう。ゴミ袋詰めされた幼児の遺体の発見からはじまり次から次へと数珠つな…

もはや評価不能の怪作――浦賀和宏『世界でいちばん醜い子供』?

八木松浦シリーズ第六作。五作目までは基本的に八木の視点から書かれていたが、今作では松浦純菜の一人称になっている。前作まで純菜はどちらかというと「神秘的な謎の美少女」テイストで描かれていたかのように思われるが、実際には超「俗物」であることが…

ミステリの終わりの終わり――竹本健治『ウロボロスの純正音律』★★★★

作者は現在隆盛を極める変則ミステリの祖と言ってよいだろう。思春期に『匣の中の失楽』の影響を受けたミステリファン(現ミステリ作家も含む)は数知れない(かくいう私もそのひとりである)。『匣の中の失楽』は、反ミステリの金字塔である先行作・中井英…

西尾維新『ヒトクイマジカル』★

ここまで戯言が多いとまじでうぜえ。ミステリ的ネタも引っ張れそうなのにあっさり片づけているし。結局、自意識過剰の思想ぶりっこぶりが完全に露呈したか。せめてストーリーがあればねえ。http://www.amazon.co.jp/%E3%83%92%E3%83%88%E3%82%AF%E3%82%A4%E3…

西尾維新『サイコロジカル』上下巻★★

戯言シリーズ第四弾。外から絶縁した研究所施設内での密室殺人。設定もキャラもいつものながらにベタだ。二巻に分かれているが上巻の最後にようやく事件が始まる。維新ですらミステリとして読んでしまう私だが、今回は完全にだまくらかされてしまった。あれ…

浦賀和宏『火事と密室と、雨男の物語』★★

松浦純菜・八木剛士シリーズ第二段。連続放火事件と密室状態で死んだ女子高生の謎を追う。ミステリとしてはかなり淡白。事件の中心に不思議な力を有した引きこもり少年が出てくる。そのいじめられっぷり、引きこもりっぷりは、ディティールはともかく生々し…

マイケル・グレゴリオ『純粋理性批判殺人事件』

新聞の新刊案内を見ていて思わずぎょっとしたので紹介しておきます。 この作家ぜんぜん知らんのだけど、この調子で『神学大全殺人事件』だの『大論理学殺人事件』とか書いてるんでしょうか・・。 http://www.amazon.co.jp/gp/product/4042963013/sr=8-1/qid=…

浦賀和宏『松浦純菜の静かな世界』★★★

西尾維新が「青春エンタ」なら、浦賀和宏は「暗い青春エンタ」か。無差別連続殺人事件の謎を、ひょんなところからつながりを持った若い男女が追う。 畏敬する殊能将之さんと同様、私は犯人を当てようとしてミステリを読まない人間だが、少し考えれば犯人はわ…

伊坂幸太郎『魔王』★★★

カリスマ的政治家が人心を掌握しつつある中、大きな流れに抗しようとした、特殊な能力を持つ兄弟の物語。前編が兄、後編が弟を中心としているが、いつものようなザッピング構造はなく、単線的である。 ファシズムがテーマにあらず、とご本人も言っているが、…

伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』★★★★★

クライムノベルだがタイトルのとおり、全体の調子は軽い。 ロマンを求めて銀行強盗を働く4人組、ところが今回は逃走途中に現金輸送襲撃犯に遭遇、車と金を強奪される。金を取り戻そうと動き出したが、さらに複雑で厄介な事件に巻き込まれていく・・。 他の…

伊坂幸太郎『ラッシュライフ』★★★★★

俺、伊坂には五つ★しかつけてない気がする(笑 この作品では五つの視点が交錯しながら物語が進み、一つに収斂していくという感じではなく、それぞれがそれぞれで完結する。 他の伊坂作品同様、ミステリだということを意識せずに読めるが、死体が勝手にバラバ…

伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』★★★★★

というわけで伊坂のデビュー作を読んでみた。参った。デビュー作からこのテンション! コンビニ強盗を働いた主人公がひょんなことから明治以来本土と交流を閉ざしているという孤島に連れていかれる。そこにはしゃべる案山子がいて、島民の精神的支柱となって…

西尾維新『クビツリハイスクール』★★

2作目、3作目と、だんだんミステリ色が薄くなってるな。密室トリックはちょっと斬新かも知れぬが。 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4061822675/qid%3D1109936462/249-6981532-5636363

伊坂幸太郎『グラスホッパー』★★★★★

ザッピングのように3人の視点がからみあい、最後に重なっていくという、伊坂おとくいの構成。日常的なスタンスを崩さないまま、普通の平凡な人間が犯罪に巻き込まれていくのを、ユーモアに満ちた文章ながら、息もつかせぬ勢いで描いていく。リフレインとし…

西尾維新『クビキリサイクル―青色サヴァンと戯言遣い』★★★

絶海の孤島に建てられた屋敷で起こる殺人事件。元財閥の娘である女主人、それに仕えるメイドの三姉妹。世界中から集められた天才たち。キャラは完全に「ゲーム」的なそれで、非常につくりもの感の高い設定だ。 主人公が例によって優柔不断でうざいが、ライト…

伊坂幸太郎『重力ピエロ』★★★★★

ユーモアがあるが軽くない、しっかりした文体で書かれている。にもかかわらず、すらすら読める。こんな文章を書けるひとはそう多くはあるまい。久々に心底すごいと思う作家だ。巧妙にばらまかれた伏線が最後に収斂していくところは『アヒルと鴨のコインロッ…

伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』★★★★★

この作者の作品は初読。ミステリと銘打っているが、青春ものの純文といわれてもまったく違和感なし。ミステリ作家にはコンプレックスからか、やたら文学文学した小説を書く輩もいるが、そういうのではなくあくまで自然体だ。 はじめに謎を提示して、解決へ向…

森博嗣『そして二人だけになった』★

大橋内部に秘密に建造された施設という密室状況で起きる連続殺人。設定は大胆だが、いかんせんキャラの造型不足で、読みの緊張感を維持するのがむつかしい。森博嗣には下手な詩的散文を書く悪い癖があるが、その欠点がもろに出ているのもいただけない。とっ…

殊能将之『キマイラの新しい城』★★★★★

ひさびさに小説を読んだが、めちゃめちゃおもしろかった。 テーマパーク内に移築したヨーロッパ中世の城の中での殺人。容疑者は城主の亡霊にとりつかれたテーマパークの社長。設定は凄いが、中身は軽い。正確に言うと「おもかる」といった感じか。本格ものと…

北村薫『朝霧』★★★★

「私」シリーズも5作目。前作『六の宮の姫君』の書誌ミステリっぷりにはうなったが、「山眠る」の俳句談義も渋い。深く広い教養を感じさせるにもかかわらず、スノッブな印象を受けないところが熟練の技。ブリティッシュミステリにはそういうのがあるよね。…