正統と異端の間で――麻耶雄嵩『螢』★★★

kanedaitsuki2008-08-04

麻耶雄嵩は奇怪なロジックで構築された作品群によって、ミステリ界に衝撃を与え続けた作家である。私も『夏と冬の奏鳴曲』にしびれた一人だ。しかし、そのあまりの奇抜さに、賛否両論あるのも事実である。
この作品はそれでいくと一見しごくまとも。かつて蛍に取りつかれて連続殺人を起こした音楽家の残した山荘が舞台だ。設定は正統ミステリの王道だが、その仕上げ方はあいかわらずきわめて異端的である。読了後すぐにでも再読してみたくなるだろう。
ただし、総合的に薄味なのは否めない。『夏と冬――』や『鴉』のような大作はもう読めないのだろうか。

螢 (幻冬舎文庫 ま 3-2)