小説

津村記久子『ポトスライムの舟』★★★★

二編集録だが第140回芥川賞受賞作のみ読了。 主人公は30前の独身女性で、契約社員として工場で働いているが、「生きさせろ!」的な社会問題は出てこない。工場の一年間の収入とほぼ同額の世界一周ツアーに漠然と行きたいと思いながら、日々を過ごしている。 …

唯一無二の会計小説――山田真哉『女子大生会計士の事件簿』DX.1・DX.2★★

気づかなかったが、実はベストセラー『さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学』の著者なのね。 筆者があとがきで言うように、ハードな経済小説ではなく、小説を用いた会計学入門書のような按配。ミステリ的味わいのある軽い短編集であ…

悲しくも美しき寓意小説――Lois Lowry "Messenger"★★★

ロイス・ローリー"Gathering Blue"の続編。 今回はマティ(前編ではマット)が主人公。虐げられた者、逃亡した者たちを受け入れて作られた村で、マティは見者と呼ばれる人と暮らしている。マティにも役割があって、それは村と外との世界を行き来してメッセー…

本格ミステリのような味わい――E. L. Konigsburg "From the Mixed-Up Files of Mrs. Basil E. Frankweiler"★★★

1969年ニューベリー賞受賞作。言わずもがなの作品ではある。 弟ジェイミーを引き連れて、退屈な日常を抜け出したクローディア。二人は仮の住処をメトロポリタン美術館に定めた。夜の見回りをやり過ごし、展示してある大ベッドで寝たり、食堂の噴水で入浴した…

世界の隅で輝くもの――Cynthia Kadohata"Kira-Kira"★★★★

2005年度ニューベリー賞受賞作。 差別と貧しさの中、たくましく生き成長する日系姉妹の話。主人公ケイティの姉リンは聡明で学校の成績もよい。何でも教えてくれる自慢の姉だ。 きらきら。姉のリンが教えてくれた最初の言葉。私は「かうあぁ」と発音したけど…

未来へつづく狭き道のり――Lois Lowry "Gathering Blue"★★★★

母を亡くした直後、足萎えのキラは悪意に満ちた隣人に訴えられた。この世界では「弱者」は排除されることになっているのだ。村を支配する守護者たちの住む、大破壊前からある建築物に赴いたキラは、予想とは異なり、そこで働くことになる。母から受け継いだ…

児童向け条理文学――Louis Sacher "Holes"★★★

身に覚えのない罪を負ったスタンリー少年は、荒地につくられた更生施設に送られる。そこで待っていたのは、炎天下、毎日シャベル大の穴を掘るという作業。人格形成のために、と言われるが、実は更生施設の女長官がそこで何かを探しているのだった。 スタンリ…

Amazonリストマニア

「腐女子向け洋書リスト」 各レビューが詳細で、それだけで読んだ気になれる。素晴らしい。ホームズ先生まで餌食になっている。

ライトノベル版サナトリウム文学――橋本紡『半分の月がのぼる空』1〜4巻★★★

心臓を患った薄命の少女と彼女に恋心を抱く少年の話。よくも悪くも「いまどき」のシチュエーションだろう。ライトノベルの世界で、SFでもファンタジーでもないこういう作品が受けているのは面白い。キャラの作り方や自分語り的なところが、なにかしらライト…

アンナ・カヴァン『氷』★★★★★

氷に覆われ終末を迎えつつある世界のなかで、幻の少女を追い求める男の放浪を描く伝説の作家カヴァンの遺作。主人公や少女に名前がなく、カリスマ的リーダーも「長官」と符牒でしか呼ばれていない。カフカ的な寓意に満ちた作品だ。滅亡は不可避なのに、妙な…

絲山秋子『沖で待つ』★★★★

同期の仕事仲間の男女の友情を描く芥川賞受賞作である表題作と、無職の負け犬女の一日を描いた「勤労感謝の日」の二編収録。前者の二人の奇妙な、しかしありえそうな契約は面白い。幻想風味をやりすぎずに入れているのもよい。ただ個人的には、世間への鬱憤…

伊坂幸太郎『魔王』★★★

カリスマ的政治家が人心を掌握しつつある中、大きな流れに抗しようとした、特殊な能力を持つ兄弟の物語。前編が兄、後編が弟を中心としているが、いつものようなザッピング構造はなく、単線的である。 ファシズムがテーマにあらず、とご本人も言っているが、…

ジェフリー・ユージェニデス『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』★★★

ざらざらしたNumber Girlの演奏を聴きながら読了。 青春小説であり、自殺小説であり、また思想小説でもある。なるほど不可解な死は(不可解な殺人と同様)ひとに物語を触発する。しかし、なんかやな感じだね、こういうの。人の死をネタにしやがってなどと道…

絲山秋子『逃亡くそたわけ』★★★

精神病院から抜け出した男女の九州縦断逃亡記。ようはロード小説。こういうの好きだが、分量的にものたりなかった。 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4120036146/qid%3D1114744069/250-4746049-7581849

絲山秋子『海の仙人』★★

宝くじが当たって敦賀で悠々自適に暮らす主人公とキャリアウーマンとの淡い出会いと別れを描いた作品。「ファンタジー」という謎の存在がでてくるが、いまひとつ存在意義を感じない(もちろんそういう風に描かれているのだが)。もう少し枚数を増やしてじっ…

絲山秋子『イッツ・オンリー・トーク』★★★★

デビュー作となる表題作は、売れない絵描きの女性の一風変わってはいるがテンションの低い普通の生活を描くオフビート小説。全体にまとまりがなく、たしかにそれがこの作品の味なのだが、たんなる散漫一歩手前とも思う。 もうひとつ収録されている「第七障害…

絲山秋子『袋小路の男』★★★★★

純文学系の作品は辛めにつけてますが、この短編集はイイです。惚れたね。 3編収録。最初の2編は、一風かわった純愛小説。大の大人が手を触れることもないつきあいをつづけてるのだが、ぜんぜん違和感がない。テイストは『蹴りたい背中』に似ているかな。 …

角田光代『対岸の彼女』★★★★

家庭から抜け出したいと願望する主婦と、その雇い主の負け犬女社長との話。内容も文体もかなりだるい。私が女性でないから共感しにくい、ということでもあるまい。どうしようもなく動かしようもない生活の中では、希望も細く低く響くのだろう。味わいのある…

綿矢りさ『蹴りたい背中』★★★

周りに溶け込むことのできない内向的な少女の、同じくクラスで浮いた存在のにな川への言葉にならない感情を描いた好中篇。あいつのこと気になる、でもそれをひとに「恋愛感情」と呼ばれるのはうざい。うん、こういう感覚はよくわかる。あえて「蜷川」と表記…

村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』★★★★

阪神淡路大震災が通奏低音として流れる短編集。日常というものが実は非常に不安定な基盤の上にあることを象徴するツールとして、オカルト的なものが使われている。村上自身もちろんオカルトなど信じてはいないだろう。しかし、端々に神秘的な宗教感覚を垣間…