アンナ・カヴァン『氷』★★★★★

氷に覆われ終末を迎えつつある世界のなかで、幻の少女を追い求める男の放浪を描く伝説の作家カヴァンの遺作。主人公や少女に名前がなく、カリスマ的リーダーも「長官」と符牒でしか呼ばれていない。カフカ的な寓意に満ちた作品だ。滅亡は不可避なのに、妙な明るさで終わっている。「滅びの美学」として映画化すると非常に美しいいいものになると思う。興行的には成功しないだろうが。
これはすでに言及されているには違いなかろうが、エヴァンゲリオンはあきらかにこの作品を下敷にしている。そう考えると映画版のあの終わり方はそんなにおかしくないのかも知れない。
私が読んだ邦訳書は、いまはなきサンリオ文庫なので、洋書の方を紹介。苦行して読むに足る。
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