もはや評価不能の怪作――浦賀和宏『世界でいちばん醜い子供』?

kanedaitsuki2007-05-10


八木松浦シリーズ第六作。五作目までは基本的に八木の視点から書かれていたが、今作では松浦純菜の一人称になっている。前作まで純菜はどちらかというと「神秘的な謎の美少女」テイストで描かれていたかのように思われるが、実際には超「俗物」であることが分かる。純菜が世界への疎外感を持ち、社会的アウトサイダーに共感することの象徴は、ある事件で亡くした左腕であり、現在ではそれに代わる義手なのだが、今回はそれに焦点を当てているといえる。それはそれでいいのだが、話の始末のつけ方が「!」とも「?」とも。殊能雅之『黒い仏』ほどの衝撃ではないにしても、よく考えるとかなりへんてこだ。「さびち(ママ)いな」の扱いもあとあとまで尾を引く。
連作なのでやはり1作目から読まないとよくわからないだろうが、実際には読んでいてもよくわからない。今作もまた、超大作の一エピソードに過ぎないのだから。しかも、おそらく1作目を読んで気に入ったひとも、2作目、3作目と読み続けることで、どんどん違和感が増幅されていくに違いない。そういうことにある種の快感を覚えることのできるひとなら、ためしに読むのもよろしかろう。

シリーズタイトルを順に挙げておく。

「松浦純菜の静かな世界」
「火事と密室と、雨男のものがたり」
「上手なミステリの書き方教えます」
「八木剛士史上最大の事件」
「さよなら純菜 そして、不死の怪物」
「世界でいちばん醜い子供」(紹介作)

こう見ていくと、少なくともネーミングセンスは非常によい。句点を必ず使うわけではない、というところも。