二十世紀黙示録――Rene Guenon"The Reign of Quantity & the Signs of the Times"★★★★★

 処女作『ヒンドゥー教研究序説』以来、伝統原理から逸脱したものとして、西洋近代への批判をつづけてきたルネ・ゲノンだが、この著はそうした批判の集大成である。
 『現代世界の危機』で提示された西洋社会の近代主義的諸潮流の諸分析をさらに深め、高度な形而上学的観点から、その行き着く先を、本のタイトルにもある「量の支配」という、ゲノンらしいきわめてクリアな用語によって描出している。これによって、いわゆる物質的領域のみならず、通常は精神的領域に属する事柄をも、同じ観点から批判の射程に入れることができるのだ。
 後半では、真の伝統原理からの逸脱の完成である「量の支配」の次の段階で生じる、伝統原理の転倒について論じている。そこでは、伝統を知らない「伝統主義」、霊的次元と魂的次元を混同する「心霊主義」や「精神分析学」、一切の原理を拒否するベルグソンの生成の哲学等々が批判の対象として分析される。それらは西洋近代の混乱や誤りを、意識的無意識的に感じている人々をも、道に迷わせてしまうがゆえに、より危険なのだ。ゲノンによれば、これらの諸現象は、最終的な壊滅の前の「時の徴」である。
 二十世紀半ばに出現した預言書だが、二十一世紀の今日、ますますアクチュアリティを強めている。伝統原理の転倒がまさに目前の事柄になっている日本においても、喫緊に翻訳されることを望む。

 最後に匂わせているのはもちろん「皇室」の問題ね。ゲノン『教権と世俗権』もこの点で示唆的。皇室典範の改正が、国民の代表機関である国会で行えること自体が、すでに教権と世俗権のノーマルな関係を壊している。
 日本では、自称「保守主義者」自称「伝統主義者」の中に、女性宮家創設、のみならず女系天皇すら支持する人がいるのだから、私はこの問題については一切希望を持ってない。もはや真の「伝統」を理解している日本人はいない。ゲノンが言う通り世界の終わりの時の徴と見なして、静かに事態の推移を見守るのみ。