二十一世紀の新たな伝統(改)――Frithjof Schuon"The Transcendent Unity of Religions" ★★★★★

kanedaitsuki2009-07-25

 改めてAmazon Review用に書き下ろしてみた。

 『諸宗教の超越的一致』は、比較宗教学者フリッチョフ・シュオンの処女作にして代表作である。その主張は、簡単にかみくだいて言えば、すべての宗教には「外面」と「内面」があり、外面においては違いはあれど、内面においては根底的一致がある、ということだ。真理は一つであり、諸宗教はその多様なる表れ(顕現あるいは啓示Manifestation or Revelation)である。これは、中心からの放射線を内包する円にたとえられる。
 シュオンによれば、理性に基づく哲学は、いわば円の外周から中心に向かう運動である。それに対して、神智(Gnosis or Buddhi)に基づく形而上学(Metaphysic)は、中心から外周へ向かう運動である。信仰に基づく神学は、両者の中間にある。つまり、神学(信仰)は理性を超えているが、なお究極の真理に達していない。教義(Dogma)は、信者を誤謬から守るが、それ自体としては真理に達することがない。真理に達するためには、教義という言語的構築物という外殻を打ち破り、無限なる内奥に至りつく必要がある(Meister Eckhart)。
 しかし、にもかかわらず、形式(Form)は必要である。なぜなら、生きている限り人間はいまだ、名色(nama-rupa言語と形態)の世界に住まうからだ。有限の存在である人間にとっては、不可視の真理は可視的な形式によって表されざるをえない。それが、この世界に様々な宗教が存在する理由である。
 諸宗教の違いを超えて、生きながらに究極的真理に達した人間は、形態の中に無形態(有限の中に無限)を、無形態の中に形態(無限の中に有限)を見る(色即是空、空即是色。Form is formless, formless is form.)スーフィズムイスラーム神秘主義)においては、この状態の人間を「双眼の士」と呼ぶ。
 こうしたシュオンの宗教的脱構築(Religious deconstraction)は、宗教が戦争と不和の象徴だった時代から、宗教こそが対話と平和的共存を示す時代への変化を先取りしている。



Transcendent Unity of Religions (Quest Book)