世界的学者による「イスラームのすべて」――Seyyed Hossein Nasr "The Heart of Islam: Enduring Values for Humanity"★★★

kanedaitsuki2009-08-02

 著者セイード・ホセイン・ナスルは、テヘラン生まれで現在アメリカの大学で教鞭をとるイスラーム学の権威で、イスラームに関する本を多数出版している。本書『イスラーム魂:その普遍的価値』は、9・11テロ以降、増幅するイスラームに対するネガティブ・イメージに対抗して、英語圏の一般の人々に向けて、イスラームについての正しい知識を提供すべく書かれた。
 その内容は、イスラームについて、教義・歴史・法はもちろん、政治・社会思想や文化・芸術など広範囲に渡り、純正一神教の多様性に驚嘆する読者もいるだろう。
 一夫多妻制や残虐刑、ジハード(聖戦)などの論争的事柄についての反論は、さらに深ぼりされるべき課題だろう。西洋社会に一定の偏見があるのは事実であろうが、ナスルの反論は必ずしも説得的でないからだ。
 すでに多くの日本語で読めるイスラーム入門書があるので、必読書とまでは言えないが、所々に差し挟まれる、ムスリムである著者自身の経験の記述は、貴重な示唆を与えてくれるだろう。


The Heart of Islam: Enduring Values for Humanity