現代無神論3人衆への反論――Ian S. Markham"Against Atheism: Why Dawkins, Hitchens, and Harris Are Fundamentally Wrong"★★★

 著者は監督派に属する。
 無神論者たちは宗教感覚、宗教言語を学ぶべき、宗教をもっと知るべきだ、というのが本の骨子だが、反論そのものとしては切れ味がないと思う。現代物理学は神仮説の方にフレンドリーだ、というのも、信仰を前提にした立論だろう。
 面白いのは、リアル無神論者としてニーチェに1章を割いているところ。この書で反論している現代無神論者たちの思想的源泉として紹介するのではなく、むしろ彼らを「穏やかな無神論者」として、ニーチェと対置させている。ニーチェの徹底した無神論は、真理を結局のところ人間の創造物と見なす。その批判の射程は宗教にとどまらず、近代科学の基盤すら掘り崩している。したがって、現代無神論は、神を排除することで科学もまたもろともに捨てさってしまう(徹底した反合理主義=ニーチェ)か、神と科学をともに受け入れるか、いずれ岐路に立たされる、というわけだ。つまり、無神論者は無神論をもっと知るべきだ、とも言っているわけで、これはいささかひねったユニークな反論法とは言えよう。