スピリチュアル・ブームを内側から破壊する爆弾ルネ・ゲノン――ルネ・ゲノン『世界の王』★★★★

 「アガルタ王国」というオカルト的題材によりながら、世界の伝統宗教が共有する「世界の王」という象徴を深く読み解いたルネ・ゲノンの著作の邦訳。
 この著のきっかけになった、オッセンドフスキー『獣、人間、神々』というアジア旅行記のさらに元ネタであるサン・チーブ『インドの使命』を併録したのが良い選択。
 若い頃、オカルト・グループに出入りし、自らオカルト雑誌を主宰もしたルネ・ゲノンだが、著作の数々でオカルティズムやスピリチュアリズムを、根本的に反伝統的な、近代主義の亜種に過ぎないと喝破している。両論文を読み比べることで、同じオカルト的題材を取り上げながら、ゲノンが、並のオカルティストたちとは違う高い視点に立っていることが分かるはずである。そういう意味で、昨今のスピリチュアル・ブームに風穴を開けるに相応しい一冊と言えよう。
 現在邦訳されているのは西洋近代批判の書『現代世界の危機』と本書『世界の王』の2冊だけである。前者の続編である『量の支配と時の徴』や、純粋形而上学に関する諸著作が翻訳されることを願ってやまない。