20世紀の形而上学者による近代文明批判の古典――Rene Guenon"The Crisis of the Modern World"★★★★

 第一次世界大戦の終了直後、「世界の終わり」を感じさせざるをない時代状況の中上梓された本書は、「個人主義」「進歩主義」「物質主義」など、様々な意匠で現れている近代=西洋文明思想を、この世界を超えた原理の否定として性格づけ、多角的な批判的検討を行っている。
 近代に対するに「伝統精神」の復興を唱えるところは、いわゆる保守主義と軌を一にするが、世界の伝統宗教に共通に含まれる純粋形而上学の観点からそれを行っているところが、ルネ・ゲノン、またゲノンにはじまるペレニアリスト・スクールの特徴と言えよう。そこから、近代主義の変種としての「擬似伝統」「擬似宗教」の危険性の告発も行い得ているのだ。
 今日の世界にもそのまま当てはまりそうな分析診断の数々は、過度の単純化を差し引いても傾聴に値する。幸い邦訳(『世界の終末――現代世界の危機』(平河出版社))もあり、この20世紀の預言書を、ぜひとも多くの人に読んでもらいたい。