投資がギャンブルで何が悪い?――橘玲『臆病者のための株入門』★★★★★

kanedaitsuki2009-01-11

 私事に属するが、同著者の『黄金の羽』シリーズは私の世界観や人生観を大きく変えたといっても過言ではない。ほとんど思想的な影響力を持っている。この本は、そうした独自の哲学を(それと分からず)提示している著者による株投資入門本である。
 著者の特徴は、常識に反するかのような主張を前面に出しながら、それに対して説得的な根拠づけをクールな筆致で着実に行っていることだ。この本もその例にもれない。
 証券会社などの投資会社は、株や債券の売買がギャンブルであることを認めようとしない。しかしそれは、ギャンブルを何かいかがわしいものとする前提があるからで、もしその前提が崩れるならば、堂々と株投資はギャンブルと言って差し支えないし、事実に目をそむけずに冷静になれる。ギャンブルは所詮、統計と確率の世界にあるのだから、リスクとリターンの関係を客観的にとらえ、合理的な投資行動をとることはできる(そもそもギャンブルなどしないという選択も含めて)。
 著者はモダンポートフォリオ理論をわかりやすく解説した上で、世界の市場全体に分散するインデックス投資こそが、「経済学的に最も正しい投資法」だと説く。その際、アクティブ運用の6、7割が、市場平均を超えないという統計的事実を示すのも忘れない。
 面白いのは、ではハイリスクハイリターンという姿勢をとるデイトレーダーのようなやり方を否定しているかといえば、そうではないことだ。著者はここでも常識に反する独自の見解を打ち出す。すなわち「デイトレーダーは一つのライフスタイルだ」と。いかに非合理に見える行動でも、本人の自己責任によって行うなら、誰もそれを止める権利などない。著者はあくまで、世間の「常識」をひとつひとつひっくり返しながら、丁寧に事実を洗い出す。かといって、学者的な生硬さは見られない。読んで必ずや知的興奮を覚えるだろう。


臆病者のための株入門 (文春新書)