Joseph Cardinal Ratzinger with Vittorio Messori "THE RATZINGER REPORT"★★★

kanedaitsuki2006-10-25

ローマ教皇ベネディクトゥス16世が教理省長官だった頃のインタビュー集。インタビュー集と言っても日本でよくある、あほな質問にだらだら答える式ではなく、しっかりテーマ別に編集されていて内容は多岐に渡り、密度は濃い。
一読の印象は「オーソドックス」に尽きる。インタビュアーもこっそり言っているが、一神学者として語るのではなく、バチカンにおける信仰の守護の中枢にいて語る場合は、おのずと護教的にはなろう。
オーソドックスとは使徒継承を保持するカトリック教会の伝統に沿って、ということだが、それは単なる伝統固執主義ではない。むしろバランスを取ることだ。第二バチカン公会議についても、それによってすべてが新しくなったなどと妄想して根本的な教義や典礼様式などの伝統を破壊しまくる過激自由主義を非難する一方、第二バチカンを全否定するルフェーブル派のウルトラ保守主義をも同時に批判している。第二バチカンだって、教会の権威によって是認された「公会議」なんだと。なるほど。
とはいえ、第二バチカンの曲解によってこんにちの教会に生じている混乱、退廃、低俗化には手厳しい。個人的に驚いたのは教理教育の貧弱化。枢機卿はフランスの会合で、あるドイツの母親が「小学生の宅の息子は、七秘蹟使徒信経も聞いたことがないっていうざますのよ、ほほ」という嘆きを紹介している。昨今、日本でも未洗礼者へのカテキズムの過程がかなり省略されていると仄聞するがいかに。
さすがにファチマ第三の予言のようなスキャンダラスな話題には口が重い。逆に典礼のような本人お家芸の分野では、「それは俺の命、もとい教会の命だ」とばかりに熱い。総じて枢機卿の語りは明快で丁寧であり、優れたカトリック入門書としても使えるお得な一冊である。
邦訳もあるが、現在入手しにくいようである。これを機会に再版してほしい。

http://www.amazon.co.jp/gp/product/0898700809/sr=1-101/qid=1161663438/ref=sr_1_101/503-5734487-5319958?ie=UTF8&s=english-books