サイモン・クリッチリー『ヨーロッパ大陸の哲学』★★
日本にいるとあまり実感がわかないが、経験論の流れをくむ英米の分析哲学派と、合理論の流れのヨーロッパ大陸の現代思想では、おなじ哲学といっても互いに外国語のようなもので、言葉が通じないらしい。この本はカントにまでさかのぼってその分裂の歴史を語り、建設的な対話を志向しようとしている。著者によれば、分析哲学の源流、ウィーン学団は、大陸系の哲学を「形而上学」であると切り捨て、自らを「形而上学」批判と位置づけているが、ある意味で大陸系哲学も「形而上学」批判なのだと説く。それぞれが別の仕方で形而上学を批判しているというわけだ。
私は分析哲学にはとんとうといが、英米系の哲学屋のさっぱりした語り口が好きで、あえて英米系の研究者による大陸系哲学の本などを読むのが、現代思想かぶれに対する解毒剤的意味も含めて有益だと思ってきた。この本もそういう点はあるが、いかんせんテーマが日本人には遠く、インパクトもいまひとつない。こういう啓蒙シリーズとしては仕方ないことではあるが、読後欲求不満の残る一冊であった。