Vishy Anand『My Best Games of Chess』より

Anandはインド出身のGM。95年にかのKasparovと世界チャンピオン戦を争った経験あり(惜敗)。
この本、通読はしてないが一局紹介したい。Game17の対Ivanchuk戦(黒番、シシリアンのリヒター-ラウザー変化)。
ちなみにこの局、ChessGames.comのデータベースで見られる。
http://www.chessgames.com/perl/chessgame?gid=1060292

1 e4 c5 2 Nf3 d6 3 d4 cxd4 4 Nxd4 Nf6 5 Nc3 Nc6 6 Ng5 e6 7 Qd2 a6 8 o-o-o h6 9 Be3 Nxd4 10 Bxd4 b5 11 f3 Qa5 12 a3 e5 13 Be3 Be6 14 Kb1 Be7 15 g4?!(疑問手) Rb8 16 Nd5 Qxd2 17 Nxf6+? gxf6!!(自らダブルポーンを作る手だが、これが絶妙手) 18 Rxd2 h5!
黒のポーン構成がぼろぼろで、この局面、白がよさそうに見える。少なくとも悪そうではない。ところが、アナンドによれば黒優勢なのだ。もちろん、そうでなければ黒17手目を選択したりしないだろう。
19 Rg1 hxg4 20 fxg4 Bc4!!(ビショップ交換を強要、しかしこれは取れない。...bxc4ののち...c3の狙いが残る) 21 b3 Bxf1 22 Rxf1 Rh3
「黒はポジショナルなあやまちをいろいろ犯しているように見える。fファイルにダブルポーンをつくり、白にhファイルのアウトサイドパスポーンを与え、c4のグッドビショップを交換してしまった。それにもかかわらず黒の方がよい。逆説か? その通りだが、それはこのゲームのたどった軌跡が、古いポジショナルな掟をかっこに入れたということを意味するわけではない」(p94)
Silman流にいうならば、これらのimbalanceは一時的なものに過ぎない。黒に有利な点は二つある。一つ目。黒はdポーンを白のeポーンと、fポーンの一つを白のgポーンと交換することで、中央にコネクティッドパスポーンを持つことができる。二つ目。主導権は黒にある。h3のルークが強力で、白のhポーンはなすすべがない。一手もゆるめず攻め立てれば、白は守りきれない。
23 Re2 Kd7 24 g5 Ke6 25 gxf6 Bxf6 26 Bd2 Be7! 27 Be1 f6 28 Bg3 d5 29 exd5+ Kxd5
こうなってみると、コネクティッドパスポーンをともなって、中央のキングがたのもしい。前線に躍り出て兵士の士気を上げているようではないか。おそらくこのような局面を十手ほど前から想定していたのだろう。アナンドの大局観が冴える一局。

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