Jeremy Silman『How to Reassess Your Chess』★★★★★

kanedaitsuki2005-05-04

中盤でのものの考え方を解説した本。いわゆる手筋集ではない。
imbalanceという概念が中心となっているが、実はこの用語これではじめて知った。意味は特に難しいわけではなく、白黒の間にある「違い」を意味する。具体的には、駒の損得、ポーンの構成、マイナーピース(ナイトとビショップ)の優位性、空間、展開、ならびに主導権、となる。
プレイヤーは、自分側と相手側にいかなるimbalanceの優位があるかを把握し、自分側のそれを増大させ、逆に相手側のそれは減少するようにと、手をすすめるべきだ、ということになる。時には、あるimbalanceを別のimbalanceに転化して有利なendingに運ぶ、というプランもありうる。読者はこうした考え方を、豊富な実例を通して徐々に理解するだろう。
面白いのは、いわゆる常識的なチェス理論に対して批判的なところだ。たとえば、多くの書物は序盤の目的は駒の展開にありというが、それは部分的な真理に過ぎない、としたうえで、「序盤の真の目的は、imbalanceを創り出し、協同して働いて優勢を得るような仕方で駒を展開することだ」(p313)と述べている。imbalanceは主に中盤に関する戦略的概念といえるが、ラストの章で詳説されているように、それは序盤や終盤にも射程を延ばしている。
この本、想像できる通り、初心者向けとはいえない。ある程度チェスの理屈を知ったうえでなければ読んでも意味があるまい。方針が同じで、もっとやさしく書かれた同著者の『The Amateur's Mind: Turning Chess Misconceptions into Chess Mastery』の方を初心者の方にはすすめる(私は未読)。
ところで、また比べて恐縮だが、この手の本、つまり中盤の考え方を、単なる実戦の解説にとどまらず、ある種抽象的なレベルでも論じた本というのは、将棋の世界では皆無ではないか。羽生がいうように「まだ将棋は歴史が浅い」ゆえなのか、それともここにも西洋と日本の思考の違いがあるのか、にわかに判断できないが。
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