般若心経解釈の革命――宮坂宥洪『般若心経の新世界―インド仏教実践論の基調』★★★★★

 般若心経は「経」ではない。般若心経の「心」は、「心髄」という意味でも、ましてや「こころ」という意味でもない。
 こんなことを本の中で主張しているのを見たら、あまたある般若心経本を読んだ方々は「まさか!?」と思うことだろう。しかし、まさしくこの本は、こうした既成の般若心経解釈にとらわれない驚くべき命題を、インド仏教史を背景に、文献的、また論理的に証明している。心ある読者は読み進めていくにつれ、他に比して、著者の般若心経解釈が非常に整合的で明快なことに気づくだろう。
 最も重要なのは、般若心経の世界が階層構造を持つ(あるいはそれを前提とする)ということを明らかにしたこと。般若心経の垂直的ダイナミズムが、はじめて開示された。人生訓めいた般若心経解説が、実は単なる「世間知」のレベルを水平移動しているに過ぎないことが、これで分かる。
 もちろん、著者の解釈が絶対的だとか最終的だとか言うことはできない。いかなる学問的業績もそうであるように、いずれは踏み越えられていくだろう。しかし現時点で、もはやこの本を読まずに般若心経を語ることはできないということは確かである。
 この本を、より分かりやすくリライトしたものとして、同著者の『真釈 般若心経』(角川ソフィア文庫)がある。また、そのサマリーがネット上で読める。
「般若心経は真言を説いたお経」
http://www.mikkyo21f.gr.jp/academy/cat48/

般若心経の新世界―インド仏教実践論の基調