宗教形而上学原論―― Frithjof Schuon "Survey of Metaphysics and Esoterism"★★★★★

kanedaitsuki2009-08-23

 シュオンの思考においては、諸宗教において「理性」と「信仰」の間に線が引かれる所を、むしろ「信仰」(faith)と「叡智」(gnosis)の間に線が引かれる。いわゆる諸宗教の、exotericな面とesotericな面との間にである。
 信仰の世界において、少なくとも見かけ上矛盾する諸命題がある。たとえば、「神は世界を創造した」「神は完き善である」、にもかかわらず「世界に悪が存在する」。信仰の世界においては完全には答えられない。しかし、叡智の世界、すなわちメタフィジカル・リアリティにおいては、これは原理から発する顕現において、表裏一体の現象にほかならない。いわば、カントをパラフレーズして言えば、信仰を超えているがゆえに、信仰において答えられない問題を立てているに過ぎない。善は自らを他に伝えようとするのが本性である。神は世界を「創造せざるをえない」(ハディースの一節「(神は)自らを知られたいがゆえに世界を創造した」)。しかし、世界の顕現は根源からの離脱を意味するのだから、善に対する否定性なしには、世界の創造はありえない。善が自己充足している限りは、創造はありえないからだ。したがって、善を分有する世界は、悪(善の否定)を伴うことなしには創造されない。
 要すれば、実は、「世界に悪がある。ゆえに神は存在する」。これはシモーヌ・ヴェィユの『重力と恩寵』の一節であり、トマス・アクィナスが『対異教徒大全』で記したことでもある。
 イスラーム神秘哲学の系統を継ぐごとく、こうしたトップダウン方式のシスティマティックな記述により、存在論、救済論、修道論(「原理の世界」、「伝統の世界」、「魂の世界」)を手際よくまとめた本書は、四読三読されるべき「永遠哲学」の教科書と言える。また、シュオンの著作中、最も体系的で整理されているので、シュオンの他著作を読む際の参考書として座右に置くに適している。


Survey of Metaphysics and Esoterism (Library of Traditional Wisdom Series)