金融帝国衰亡史――ロジャー・ローウェンスタイン『最強ヘッジファンドLTCMの興亡』★★★★

kanedaitsuki2009-01-17

 ノーベル経済学賞受賞者ショールズとマートンを擁した伝説のヘッジファンドLTCM(Long Term Capital Management)の栄枯盛衰を描いた一冊。取材やインタビューを重ね、臨場感ある筆致で秘密のヴェールに隠されていたLTCMの内部事情に分け入っている。アメリカの非常に良質なジャーナリズム精神と、ノンフィクションな題材を面白く物語るストーリーテラーぶりがほどよく融合しており、飽きさせない。
 同じくLTCMを題材にした本には他にニコラス・ダンバー『LTCM伝説―怪物ヘッジファンドの栄光と挫折』もあるが、後者はLTCMというヘッジファンド誕生までの、金融の歴史にまで溯った前史が半分近くもあり、どちらかというと知的読み物といった体裁(たとえが正しいかどうか自信はないが、リサ・ランドール『ワープする宇宙』の金融工学版と言ってもいいかも知れない)。単純に面白いのは前者だと思うが、二冊合わせて読めば、興奮に満ちた金融工学的世界を実感するに足りるだろう。


最強ヘッジファンドLTCMの興亡 (日経ビジネス人文庫)
LTCM伝説―怪物ヘッジファンドの栄光と挫折