私小説にあらず――吾妻ひでお『失踪日記』★★★★

kanedaitsuki2007-02-13

小学生以来の吾妻ひでおファンだが、この評判作は最近ようやく読んだ。浮浪者・下層労働者としての生活やアルコール依存症での入院生活など、私には経験はないが、決して遠い世界だとは思わなかった。私にとってはじゅうぶん身近でリアルである。
モチーフからすれば、どろどろした感じでいくらでも描けるはずだが、作者の視線は徹底的に覚めており、自己卑下的でも(それをただ逆立ちさせた)自己肯定的でもない。この「批評性」のなさが、吾妻漫画の純粋性を保っている。たとえばいがらしみきお描く『SINK』は作者の思想性が濃厚で思わず鼻白む。一度かような作品を読んでしまえば、『ぼのぼの』など、似非ナンセンスとしか見れなくなるのだ。すでにナンセンス・シュール路線など巷に氾濫してしまったが、いまいちどその本道・本源を省みる必要があろう。

http://www.amazon.co.jp/%E5%A4%B1%E8%B8%AA%E6%97%A5%E8%A8%98-%E5%90%BE%E5%A6%BB-%E3%81%B2%E3%81%A7%E3%81%8A/dp/4872575334/sr=8-1/qid=1171342688/ref=pd_bbs_sr_1/503-5734487-5319958?ie=UTF8&s=books