木田元『ハイデガー『存在と時間』の構築』★★★★

kanedaitsuki2005-08-04

最近プチ哲学モードなので再読。
ハイデガーの未完の著作『存在と時間』、その未完部分の内容を構成してみようというユニークな試み。木田の文章は平明でわかりやすく、なによりハイデガーを語るひとにありがちなもったいぶったところがないのがいい。なぜ未完のまま挫折したかについてまで推察しており、全体に説得力がある。
目を引くのが有名なカントのテーゼ「存在はレアールな述語ではない」について語る部分、「レアール」は邦訳ではほとんど「実在的」と訳されているが、これではなんのことかさっぱりわからない。木田はハイデガーの指摘をふまえて(諸外国でも事情は似たりよったりらしい)「事象内容を示す」と訳している(ちなみに平凡社ライブラリーから原祐訳の『純粋理性批判』が最近刊行されているが、校訂が入ったためか、きちんと「事象内容を示す」と訳されている)。『純粋理性批判』のように繰り返し読まれた重要著作においてすら、このような誤訳があるのは、日本の哲学研究のレベルの低さをあらわしていると木田は述べている。なんとも辛辣である。
ある程度ハイデガーの問題系を知っていた方が望ましいが、ハイデガー入門としても十分通用する優れた啓蒙書だ。
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