ティモシー・ガウアーズ『1冊でわかる 数学』★★★

これは英語圏の啓蒙書の傾向ともいえるが、非常にエレガントな本。ぐいぐいひっぱったりたたいたりする口調ではなく、バロック音楽のごとく、文章が実に上品なのだ。不思議にこのタイプの本は、日本では少ない。啓蒙書の悪書は、やたら大げさな口ぶりでうるさい感じだが、良書にしても、どこかに読者にへたに媚びを売っているところがあって、鼻白むことが多く、いわば良書と悪書の差は程度問題でしかないという気がする。これは作者が読者をなめているせいなのか、あるいは実際に読者層の民度の問題なのかはわからないが、気になるところである。そういう意味で、非日本の啓蒙書の雰囲気を味わいたいかたなら試す価値はあるが、単純に内容のみを知りたいならば、同類書は洋書和書を問わず、ごろごろある。こういうトーンで、もう少しボリュームがあれば、迷わずおすすめなのだが、1400円出すほどの価値があるかどうかは疑問である。それくらい出せばよい理数系の洋書はいくらでもある。
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