吉永良正『新装版 数学・まだこんなことがわからない』★★★

一般読者向け現代数学本において、数学の未解決問題を取り上げるのは常套手段といえよう。誰しも解かれていない問題というものには興味がわくものだし、そうした問題を解こうと力を傾注した数学者たちの姿は、一篇のドラマとなりえるからだ。この本はどちらかというと、ドラマ性についてはほどほどにおさえて、できるかぎり数学そのものの愉しみを伝えようとしている。人文系のひとへの入門書というよりは、将来理数系の学問に進む可能性のある子供たちに向けて、数学の世界にいざなおうという体裁である。その意味で読者を選んでおり、ポピュラリティのなさゆえに点は辛めにつけた。しかし、日本の代数幾何学研究の成果である森理論に多くのページを割いて熱意を込めて語っているところには、思わずこちらも引き込まれる。数学の広い世界を一度に味わうには不向きだが、数学啓蒙のひとつのアプローチとして、評価されていい。
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