日陰の花のような、しかし心のこもった佳作――『魔法遣いに大切なこと』★★★★

 昨今のアニメを基準にすると、アニメらしくないアニメかも知れない。
 魔法士の試験通過を目指し「遠野」から上京した少女の成長物語(ビルドゥングス・ロマン)が中心。設定の「魔法」は日常生活に溶け込んでおり、派手な展開はまったくない。主人公たちの悩みは個人的で、私たちの生きる現実と変わらず、社会を超えることなくとどまる。これを浅いと見る人もいるだろうが、明らかに意図的な抑制であり、非常に後味の良い仕上がりになっている。
 声優経験のない宮崎あおいを主人公役に充てたのはある意味冒険だったろうが、むしろ素人くささが残っていることが、田舎から出てきたばかりでなまりの抜けない素朴な少女役に結果的にぴたりとはまった。こういうタイプの「癒し系」アニメは、あまりにそれを目的として意識的に製作していたらむしろ嫌味なものになっていたであろう。その意味で、様々な幸運が重なってできた佳品のように思える。