モノテイズムの大逆襲――中田考『イスラームのロジック―アッラーフから原理主義まで (講談社選書メチエ) 』★★★

kanedaitsuki2009-07-05

 日本人ムスリム学者中田考先生によるイスラム本。類書にない独自のポジションが目を引く。
 西洋人(+日本人)は、サイードの指摘するオリエンタリズムに基づき、「異文化」としてイスラームを理解してしまう。しかし、中田が主張するように、イスラームが、民族や文化を超えて伝播した歴史的事実は、イスラームには何らかの普遍性が存するということを意味する。中田が目指すのは、このイスラームの普遍性を、あらゆるノイズを排して、日本語で日本人に伝えることだ。
 その場合ノイズとなるのは、まず日本人の、部分的には西洋に影響を受けた認識論的枠組であるが、実は、イスラーム文化自体も、真のイスラームを隠蔽するヴェールとなっている。特に、西洋輸入の近代国民国家に基礎づけられた、現在のイスラーム国家においてそうである。
 それゆえ、中田は、現代におけるイスラームとその日本における認識論的前提を顕在化するとともに、イスラーム文化(国家)に内在する問題をも同時に摘出する。この書の構成を、現代から過去に溯る形にしたのも、そうした解釈学的問題意識による。
 実際に出来上がったものは、中田の個人的関心と熱情の浸透した、深さと広さの点で極めてアンバランスで、システマティックとは言いがたい書籍になってしまっている。しかし、ほとんど原理主義的と言えるほどのイスラームへのコミットメントの下で書かれた日本人による日本語の書は少なく、その意味では貴重な価値を有すると認めざるをえないだろう。

イスラームのロジック―アッラーフから原理主義まで (講談社選書メチエ)