純粋まっすぐミヤダイ君――宮台真司『日本の難点』★★★★★

kanedaitsuki2009-05-29

 社会は恣意的な構築物に過ぎない。これに対して、似て非なる二つの立場がある。すなわち「境界性の恣意性」を問題にする側と「コミットメントの恣意性」を問題にする側。前者はポストモダン思想によって人口に膾炙した。日本人であることは自明ではない、男性/女性であることは自明ではない、云云。後者は著者宮台真司の立場で、社会が虚構であることを自明の前提として、社会にコミットし、より「生きやすい」社会システムを構築することを目指す。
 こういうと、それはかつてのマルクス主義左翼に代表される社会改革運動とどう違うのと疑問を持つ方もおられよう。確かに宮台は、マルクス主義哲学者廣松渉を通して、社会改革運動の影響を受けている。しかし、宮台には「あるべき社会」という幻想がない。あるべき社会などない、社会は恣意的な構築物なのだから、というわけだ。かといって、斜に構えて、社会は所詮虚構なのだから、社会運動へのコミットメントなど無駄、とも見なさない。なぜなら、社会システムは、恣意的であるからこそ、可塑的であり、より自由で幸福な生き方を可能にするためにコントロールできるからだ。
 本書は、そうした社会システムの構築のために必要なものを提供する。すなわち、現実にある問題、その問題の原因、その原因を除去あるいは軽減するための方法、それらを把握するための理論枠組である。
 扱っている問題は「コミュニケーション論・メディア論」「若者論・教育論」「幸福論」「米国論」「日本論」と、やや抽象的なものから具体的なものまで多岐にわたるが、きわめてアクチュアルである。個別に読むことももちろんできるが、実際にはひと連なりになっている。それは読めば分かるだろう。
 単独の著書としては著者初の新書で、そのせいもあってか、いつもの脱線が少なく、勘所をシンプルに記述している。いままで宮台真司に接したことのない人にとっては、格好の宮台入門書である。


日本の難点 (幻冬舎新書)