「ニート」って言え!――杉井光『神様のメモ帳』1〜3巻★★★★★

kanedaitsuki2009-02-15

 目立たない高校生の主人公ナルミが、ふとしたきっかけでニート探偵(!)アリスと出会い、大事件に巻き込まれる。
 ドラッグやマネーロンダリングなど、扱うテーマは重いが、全体に暗くない。また、文章が非常に良い。

「ねえ、ナルミ。ぼくと初対面の人間は、だれもが例外なくこう訊くんだ。『ほんとにニートなの? どうしてニートになったの?』訊かなかったのはきみがはじめてだ」
 アリスはしゃがみ込んで、うずくまった僕と目の高さを合わせる。
「あるいはきみのそれは無神経とか無関心とかいうものかもしれないけれど、ぼくは――ぼくらニートは、それを嬉しく思う。憐れむくらいなら、ほっといてほしいんだ。どうしてニートになったのかなんて、訊くまでもない。そんなの、理由は一つしかない。神様のメモ帳の、ぼくらのページにはこう書いてあるのさ。『働いたら負け』ってね。他に理由はない」
「……神様のメモ帳?」
「すてきなくらい無責任な言葉だろう?」
 膝を立ててそこに両腕と顎をのせ、アリスは微笑む。
ニートというのはね。なにかが『できない』人間や、なにかを『しようとしない』人間のことじゃないんだ」


神様のメモ帳』、電撃文庫、2007年、pp.49-50

 非常に抑制された乾いた思慮を感じさせる。たとえば、カート・ヴォネガット・ジュニアのような。
 あまりおおっぴらにしていないが、作者の知識と教養もかなりのものだろう。私は、この本ではじめて、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの『たったひとつの冴えたやり方』の原題が"It's the only neet thing to do"だと知った。

(20090216追加(コメント欄参照))
実際の原題は"The only neat thing to do"。



神様のメモ帳 (電撃文庫)
神様のメモ帳〈2〉 (電撃文庫)
神様のメモ帳〈3〉 (電撃文庫)