第21期竜王戦雑感

 ありきたりな言い方になってしまうが、あらためて、最後は精神力の問題と思った。
 たしかに渡辺竜王も天才には違いないが、将棋の総合力では依然羽生名人の方が上だろう。いやむしろ、他のトップ棋士たちに比して抜きん出ている。第一局は象徴的で、対局者の渡辺竜王や、解説の佐藤棋聖が「先手渡辺良し」とした局面、羽生名人のみが後手優勢と判断しており、実際それはただしかった。渡辺竜王は将棋観、一般的な言い方をすれば世界観を完全に破壊されたのである。さすがの自信家の渡辺竜王もショックだっただろう。三連敗はその結果だ。
 しかし、本人もブログで言っている通り、そこであきらめず、第四局で奇跡的な逆転勝ちをおさめたのが大きかった。渡辺竜王にはいい意味での「鈍感力」があって、あの羽生相手でも(しかも三連敗している!)あきらめないでいられるのは、相当神経が図太くなくてはならない。このあたりの機微は棋譜にも表れているはずで、それを踏まえた渡辺将棋論がいずれ書かれるだろう。
 ともあれ、久々に熱い感情の沸き起こったシリーズであった。


「振り返って。」(渡辺明ブログ)