稲垣武『「悪魔祓い」の戦後史』★★★★★

再読。私が急激に右旋回(笑)するきっかけになった本のひとつ。著者はいわゆる進歩的文化人の言説を追って、彼らがいかに世論をミスリードしてきたかを検証する。左翼の理論的な部分の批判というよりは、事実を直視せず、自らの理念によって現実をねじまげるという、言説の非道徳ぶりを告発しているといえる。ソ連、中国、北朝鮮といった全体主義国家をどれほど賛美していたか、今となっては滑稽で哀れだ。
面白いのはベトナム戦争についてで、当時彼らはそれが北ベトナム共産主義政権主導であることを認めず、できるかぎりその色を薄め、あたかも抑圧された人民による植民地解放のための蜂起であるかのように言いつのっていた。米軍撤退後、誰の目にも北ベトナム主体たることが明らかになった途端、まるではじめからそんなことは分かっていたとでもいうように、以前のことは知らんぷりして、簡単に言葉を変じている。なんという破廉恥漢たちだろうか。
政治的思想的に右か左か、ということとは無関係に、彼らは主義のために嘘や歪曲をしてはばからない連中だ、ということがよくわかる佳品である。江藤淳『閉ざされた言語空間』とともに日本人必読の書である。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4167365049/qid=1128161228/sr=1-1/ref=sr_1_10_1/249-1083405-6954703