NHK杯 中川大輔七段―谷川浩司棋王戦

中身が濃いプロらしい将棋。谷川の2二銀という一着にはちと驚いた。銀交換を避ける手筋ではあるが、森下卓八段のごとき渋い差し回し。終盤にも手駒の銀を7四に打って傷を消すという手を見せた。谷川といえば光速流という寄せの速さがよく言われるが、今回はこういう丁寧で厚みのある手が光っていた気がする。
それにしても、本局も採用していた一手損角換わりは最近はやり出しているが、不思議な戦法である。現代将棋はここ20年ほどでずいぶん定跡研究が進んだが、新戦法も増えている。主なものといえば、「藤井システム」「横歩取り8五飛車戦法」そしてこの「一手損角換わり」だろう。それぞれ、それまでの棋理に完全に反しているのが特徴だ。「藤井システム」は「居玉は避けよ」に、「8五飛車戦法」は「高飛車は避けよ」に、「一手損角換わり」は「手損は避けよ」という棋理に反している。あまり使いたくない言葉だが、将棋の戦法に大きな「パラダイムシフト」が起こっているわけだ。それが定跡のシステム化にともなって起きているのも、興味深いところである。この問題はいずれまた詳しく論じてみたい。